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 花子   村山 恵美子

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2014-7-13 7:48
m-hanami  モデレータ   投稿数: 374

 花子
       村山 恵美子

 新聞の地方欄に、ばんえい競馬に出走する馬の試験があった事が載っていた。『道産子(どさんこ)』と呼ばれる大型の馬が500?の馬そりを引いて障害の坂を登っている写真があり、身体から湯気が上がり苦しそうだ。
地元民には『ばんば』と呼ばれているばんえい競馬。他の娯楽に押され最近は人気も低迷、存続も危ぶまれている。テレビで本当の競馬で走るシャープな馬を見るまで、馬はこの道産子しか私は知らなかった。身体が大きく、足も首も太い農耕馬。

小さい頃、農業をしていた我が家にも農耕馬がいた。どこの家にも必ず馬小屋があって、飼っている農耕馬の能力で仕事の能率はかなり左右されたようだ。
「いい馬だなあ?」農家のオヤジ達の誰もが我が家の馬の事を褒め、羨ましがり、父は自慢げだった記憶がある。「どこがいいのかな…」子供の私には全然分からなかった。

 学校から帰って何もする事がない時は馬小屋によく行った。寝そべっていた馬は人の気配で立ち上がり、こっちに首を伸ばして来る。大きくて怖い「蹴られるから後ろには絶対行くな」いつも親に言われていたが、怖い反面とっても可愛いヤツで、あの大きな優しい目を見ては、背伸びをして恐る恐る顔に触れていた。子馬が産まれた時も可愛くて、その時はさすがに親の目で、キッと睨むような目、あっちに行け!と言わんばかりだ。草を鎌で刈ってきて食べさせたり、父と一緒にブラシを掛けたり、大好きな家族の一員だった。

 足の病気になったようだった。獣医さんが来て、前足の蹄の辺りを治療していた。暴れないよう縛り付けられ痛がって首を振る馬が哀れでならない。「可愛そうだ、あんなにほじくり返して、血が流れているじゃない!」私は離れた所から無言で見ていた。何度か獣医さんは来て「いい馬だよね?もったいないな?」馬の腹をポンポンと叩き、それっきり来なかった。冬が迫り来る寒い時期になっていた。

 雪が降り積もったある日の晩ご飯。炊いた肉が大きな鍋一杯にあった。肉など贅沢なものでどうしてこんなに大量にあるのか不思議でならない。食べるとちょっとシワくて固い。次の日も同じ肉があった。三日目、母が雪の中に埋めてある肉を掘り出している姿を見て、近寄り聞いた。
「それなあに?」
「馬肉だよ」
それ以上母は何も言わなかった。あ!もしや!?馬小屋の方を見やると、馬の姿がない。ガランとした小屋。雪が降ってもう外で遊ばなくなった私は、馬小屋にもしばらく行っていなかった。
「馬…死んじゃったの?」
母は黙って首を上下に振った。その当時、馬が死ぬと近所の農家のオヤジ達が集まって、解体し肉を分け骨は埋めて葬ってやるのが常識だった事は、子供ながらに知ってはいた。でもまさかあの可愛いヤツがこの肉片になって、知らずに食べていたなんて…かなりのショックだった。またまた登場した肉の煮物、もう食べられなかった。

 牛、鳥、豚、どれも普通に食べているのに、馬だけは今も無理だ。大きな顔を前後させハーハーと重い馬そりを引く姿、一日の仕事を終え日暮れの中、疲れてトボトボと父に連れられて小屋に戻る姿、子馬に乳を吸われる穏やかな眼差し、いっぱい思い出がありすぎて、これから先も馬肉は食べられそうにない。

 今ではその地位はトラクターに取って代わられ、ばんえい競馬か観光用に必要な位であろう。ばんばの馬として試験をパスした馬は、鞭打たれ500?どころではないもっと重い馬そりを引かされる運命。そして、試験にパス出来なかった馬達は馬肉になってしまうらしい。なんともどちらも哀れだ。

 先日、馬の絵のジグソーパズルを買ってきた。砂塵を上げながら数頭の白馬が、たてがみをなびかせ向かってくる絵を組み立てながら
「こんな格好良くなかったし、もっともっとデカくて怖くて…でもあの目はキラキラして優しかったよね…」
名前でも付けてあげればよかたな?雌だったから、なんて名がいいかな?。ふいに浮かんだ名は『花子』え?なんだこりゃ?まるで芸がない。可笑しくて笑えた。
私の心に今も優しい目をした黒い大きな『花子』が住んでいる。

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