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本牧ブルース
2、雪枝

第一章

GS vs G2

Scene3)「GS VS G2」1946年10月22日(火)


東京丸の内、連合国軍最高司令部:GHQの置かれている第一生命館六階にヘンリー・デュボア少佐の所属する民生局(GS)の本部は置かれていた。窓からは皇居が見下ろせるこの場所に、アメリカ政府が最高司令部を置いたのは完全に意図的なものだった。その意図とはつまり「我々は天皇よりも上である」という現実を日本国民に見せつけることに他ならない。そして終戦から今日までのところ統治はうまくいっていた…表面上は。
「デュボア少佐、ケーディス大佐が執務室でお呼びですよ」
秘書のジェーン・ホールデンが伝えた。部内では女優のビビアン・リーに似ていると評判の美人だ。ジョージア出身、甘ったるい南部訛りが魅力的に響く。
「で、ジェーン、今日の大佐のご機嫌はどうだい?」
「何かとてもお怒りのようですよ。先ほどまであちらにいらっしゃったんですけど」
ジェーンはドアの外を指差しながら顔をしかめた。
「あちら」とは廊下の奥にあるマッカーサー元帥の執務室だった。もともとは第一生命の社長室だった部屋である。ケーディス大佐が不機嫌ということは、またウィロビーともめたのかも知れない。ヘンリーの上司ケーディス大佐と参謀第二部(通称G2)のウィロビー准将は犬猿の仲だった。日本の統治を巡る諸問題のあらゆる面で対立していた。
「入りたまえ」
ヘンリーがケーディス大佐の部屋のドアをノックすると不機嫌な声が響いた。
「全く話にならん!」
ケーディスはヘンリーが部屋に入るなりパンチを繰り出すような勢いでまくし立てた。
「ウィロビーの奴、労働組合はアカの巣窟だと抜かしやがった!だからスパイを送り込む必要があると」
「え?スパイですか?大佐」
ヘンリーは耳を疑った。
「そうだ、スパイだよ。旧日本軍の諜報機関や秘密警察にいた者達を集めて労働組合に忍び込ませ情報を得る…それだけじゃない、妨害工作までさせようというわけだ」
「しかし、それでは我々が苦労して作り上げてきた日本の労働者の権利を守るための…」
「そんなことはどうでもいいと奴はハッキリ云ったんだ。とにかく今は共産主義者から日本を守らなければならないと。それ以外のことはどうでもよいと」
「で、大佐、マッカーサー閣下はそれに対してどうおっしゃったんですか?」
「例の調子だよ。ヘンリー、君も知っての通り閣下は次期大統領の椅子を狙っている。当然、今はどこにも敵を作りたくない。だから誰に対しても『うむ…君のいうことはもっともだ』しかいわないんだ」
弁護士上がりのケーディスにとって「理屈抜き」の発言を繰り返すウィロビー少将は最も許せないタイプの人間だった。さらにユダヤ系のケーディスは、アメリカに帰化したとは言えドイツ人のウィロビーに対して本能的に反発してしまうのは仕方がない部分もあった。
「ヘンリー、君も気を付けた方がいい。G2の奴らは我々をも狙っているぞ。何か弱みを見つけて失脚させようとしているんだ。そう言っては何だが、君の付き合っている日本人女性…何と言ったっけ?Yukiか?彼女の事も嗅ぎ付けているはずだからな」
「大佐、お言葉ですが、彼女とのことはプライベートですから…」
「ヘンリー、君はポートランドに妻と子供がいるだろう?」
「ええ…しかし、そのことはYukiも知っていますし…」
「ヘンリー、G2の奴らを甘く見ない方がいいぞ。奴らは勝手にストーリーを作り上げてしまうんだ。君の火遊びのストーリーをプレスの連中に漏らしたら、きっと尾ひれがついてとんでもない記事になるかも知れないぞ」
「はい、気を付けます、大佐。しかし、向こうがそう来るなら、我々も逆襲に出たらどうでしょうか。ウィロビーの弱点を探ってみては?」
「それはもう試みている…が、ガードが固くてダメージを与えるのは至難の業だ」
「そうですか。私の方でも何か対策を考えてみます」
「うむ、我々は今や日本軍よりも手強い相手に遭遇していると考えてくれ」
「はっ!了解しました!大佐」
デュボア少佐は敬礼して部屋を出た。
確かにこのところ少し羽目を外し過ぎたようだ。これからはYukiに会うのももっと慎重に動かなければならないだろう。ヘンリーは自室に戻ってからもG2に対する反撃の方法をあれこれと考えていた。窓際に立ってぬるいコーヒーをすすりながら眼下の皇居を眺めていると、突然アイディアが閃いた。
「そうだ、ディックに相談してみよう」
ディックとは横浜のバー「ポートホール」のオーナーのことだった。本業は…最近サボり気味とはいえ…弁護士だったし、きっと今でも様々な情報が耳に入って来ているはずだ。
ディックは本名をリチャード・ファーガソンと言い元々は東京裁判の首席検察官であるジョセフ・キーナンの秘書団の一員として来日したのだが、途中で職を辞し横浜に自分の弁護士事務所を開いたのだった。テキサス出身の荒削りな気性のせいかキーナンとはたびたび衝突し、ついに飛び出したらしい。ヘンリーから見ると「正義感が強過ぎて組織には向かないタイプ」の典型だった。しかし、その情報収集能力はずば抜けていた。ヘンリーは電話を取るとディックに調査の協力を依頼した。
「もちろんそれなりの報酬は払うよ。調査の費用はしっかり予算から取れるから大丈夫だ。一週間後に行くからよろしく頼むよ」
ヘンリーは電話を置くとこぶしを握り締めつぶやいた。
「よし、反撃開始だ!見てろよ、G2め!」



4、横浜の夜


XOOPS Cube PROJECT