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ナガサキ

太平洋年代記

[[第二章 異郷の風習

2、横浜

 長崎行きの話が持ち上がってからというもの、ジェームスの心は弾み情報収集にも余念がなかった。最近はすっかり馴染みになった横浜の港町の商店や貿易商社を回って、~本国の様子やヨーロッパ、アジアの状況を聞いたり、色々な交易品を見せてもらっているうちに、ジェームスは今までの自分がいかに小さな世界しか見て来なかったかを思い知らされた。
「世界は広い! そして動いている」
 ジェームスの父:ウィリアムもヨーロッパやアジアの事情には通じている方だったが、時代は今や急速に動いている。祖国アメリカは内戦状態だし、ヨーロッパもいまだに戦火が絶えない。この先、世界はどうなっていくのか、ジェームスはその行く末を見届けたい気持ちでいっぱいだった。
 今日も、ジェームスは横浜の街に郵便物を届けに行った帰り、ヴィンセント商会に寄ってみた。このあたりはヨーロッパ風の建物も多く、潮の香りも相まってどことなく故郷のサンフランシスコを思わせる雰囲気が漂っていた。商店には服地や下着、靴などの衣類のほか、様々な雑貨、食器などの日用品、食品など日本に住む欧米人のための必需品がいつもそろっていたので、ジェームスは毎週のように通っており、今では、マネージャーのモロー氏や従業員の皆ともすっかり顔馴染みになっていた。
「モローさん、何か珍しいものは入りましたか?」
「おお、これはジェームス君、いらっしゃい。クリスマス用品が色々揃ったよ。見て行ってくれよ。領事館の飾り付けは終わったのかい?」
「はい、領事館には今までの飾りがあるので間に合っています。今はモミの木待ちなんです」
「ほう!モミの木ならうちでも扱っているから大きさを言ってくれれば揃えるよ」
「いや、それはもうどこかに手配したらしいので、ご心配なく」
「そうかい。ところでジェームス君、クリスマスに家でパーティーを開くんだが、君の予定は?来てくれれば家内も喜ぶし、何だったら誰か連れて来ては?」
「誰か」と言われて、すぐに思い浮かんだのは千代のことだった。果たして誘ったら来てくれるだろうか…。ジェームスは少年のように胸がキュンとなるのを感じた。こんな気持ちは何年振りだろう。戻ったらすぐに話をしてみよう。そうだ、その時に手渡すプレゼントも何か用意した方が良さそうだ。ジェームスはヴィンセント商会を出た後も、しばらくウロウロと色々な商店のショーウィンドーを見て回り、千代に何をプレゼントするかをアレコレ想像しては楽しんだ。
 そして、ジェームスはそのまま街を抜け港に向かって歩いていった。桟橋にはちょうどイギリスの商船が停泊していて、中国人の人足達が沢山の木箱を船から運び出していた。この桟橋は通称「象の鼻」と呼ばれており、先端の方が象の鼻のようにカーブしているのが特徴だった。ジェームスは象の鼻の突端まで行き、岸壁に腰掛けてボーっと海を眺めた。子供の頃もよくサンフランシスコの港でそうやって過ごしたものだった。
 自分が今こんな遠くの東洋の島国の港町にいることが、何だか夢の中のような気がした。ジェームスはこんな時、母の存在を身近に感じた。もちろん母の肉体はないが、魂が触れ合うのがわかる。
「しばらくそのまま進んでいってごらん。大丈夫だから」
 母の声が頭の中に響くのを感じた。
「ありがとう」
 ジェームスは小さく呟いた。
「ボ〜〜!」
 突然汽笛が鳴ってジェームスは我に返った。見ると大きなフランス船が入港して来るのが見えた。ジェームスは立ち上がって領事館へと向かった。

クリスマス


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